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最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)1553号 判決 1992年1月24日

上告人

ゴールド・マリタイム株式会社

右代表者代表取締役

丹羽基

右訴訟代理人弁護士

田邉満

被上告人

越牟田政亮

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六三年(ネ)第二三三四号地位確認等請求事件について、同裁判所が平成二年七月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田邉満の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成二年(オ)第一五五三号 上告人ゴールド・マリタイム株式会社)

上告代理人田邉満の上告理由

第一、原審判決が本件出向命令を無効とした判断は、法令の解釈適用を誤り、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないものである。

原審判決は、「控訴人の出向に関する改正就業規則及び出向規定の各規定はいずれも有効なものというべきであり、その運用が規定の趣旨に即した合理的なものである限り、従業員の個別の承諾がなくても、控訴人の命令によって従業員に出向義務が生じ、正当な理由がなくこれを拒否することは許されないものと解するのが相当である」と正当に判示しながら、「控訴人のなした本件出向命令には、その業務上の必要性、人選上の合理性があるとは到底認められず、むしろ、協調性を欠き勤務態度が不良で管理職としての適性を欠くと認識していた被控訴人を、出向という手段を利用して控訴人の職場から放逐しようとしたものと推認せざるを得ない」とし、「本件出向命令は業務上の必要性があってなされたものではなく、権利の濫用に当たり、同命令は無効というべきである」と判断する。原審認定のとおり、上告人は「被控訴人について、協調性がなく勤務態度も不良で、管理者としての適性を欠き、第一次解雇を取り消した後も控訴人の職場内には復帰させるべき余地のない人物であると評価していた」ことは事実で、被上告人が管理者として不適であり、協調性の欠如が著しいため各職場において受け入れるところがなく、職場内に復帰させることが出来ない状況にあった。しかし、当時、辰己商会との業務提携交渉が進められに(ママ)あたり、辰己商会に人員派遣の必要が生じており、被上告人は上告人に長年月勤務して通常の輸出入業務には通暁しており、辰己商会で浜口取締役の監督下で、その指示に基づいて、船荷目録作成のためのコンピューター入力、船荷証券の作成、入港船の入出港手続等の業務については十分遂行できる能力を有していたから、出向を命ずるに至ったのである。原審判決は「出向という手段を利用し職場から放逐しようとしたものと推認せざるを得ない」というが、被上告人としては社内で受け入れる職場がないため、辰己商会との業務提携を機に生じた辰己商会内での業務に就かせることにしたものである。職場からの放逐という悪意のある狙いなら第一次解雇につき徹底して争う余地は十分にあったと言わねばならない。

使用者は、業務上の必要に応じその裁量により労働者の勤務場所を決定することができ、また、出向規定の定めがある場合、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の出向先を決定することができるというべきであって、被上告人の辰己商会への出向は辰己商会との業務提携の進行と同時に被上告人に適した職場を与えるためのものであり、本件出向が不当な動機・目的をもってなされたものとは到底いうことはできない。一方、被上告人に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたものでないことは、通勤時間にさしたる差がないこと及び現在上告人本店及び南港ターミナル事務所を被上告人の出向先の辰己商会ビルに移転し従業員全員が移動している事実からも明らかである。

従って、本件出向命令は何ら権利の濫用に当たるものではなく、原審判決が本件出向命令を無効とした判断は、法令の解釈適用を誤り、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないものである。

第二、原審判決には審理不尽による理由不備の違法がある。

原審判決は、本件出向の必要性に関し「控訴人と辰己商会との間には昭和六三年四月以降資本面ないし役員面での提携をはかり、本店所在地を辰己商会ビル内に移転したことを理由に本件出向命令の合理性、必要性をいうが、本件出向命令発令後三年余を経て生じたこれらの事情によって、その合理性、必要性を証拠づけることは相当ではなく、右主張は失当である」と判示している。

本件出向命令の合理性、必要性について、上告人は「本件出向先である辰己商会は、傘下に倉庫業、海運、船舶等の子会社を抱える大企業であって、営業強化を図る控訴人にとって同商会との業務提携は非常なメリットがあったことから、控訴人の親会社(オーナー)のジム・イスラエル汽船株式会社も乗り出して辰己商会と種々長期にわたる提携計画の交渉がされていた。これらの具体的内容については控訴人内部においては絶えず検討が加えられていたがあくまで極秘扱いとされており、本件出向命令当時被控訴人に対してその内容を説明することはできなかった。しかし、両社の提携計画の進行にともない、昭和六三年四月一四日に辰己商会(名義人は辰己商会の一〇〇%子会社である東南興産株式会社)にジムイスラエル汽船会社の会社持株のうち六四、〇〇〇株が譲渡され、昭和六三年五月二五日には辰己商会の浜口取締役ら三名が控訴人の役員に就任し、同年八月一日には控訴人の本店及び南港ターミナル事務所を辰己商会本店のある大阪市港区築港四丁目一番一号辰己商会ビルに移転するに至った。本件出向命令による被控訴人出向後の勤務地は右辰己商会ビル内であったし、出向後の被控訴人の仕事も右浜口取締役付業務を行うことが予定されていたものである(昭和六三年八月一日より、会社は辰己商会に対し船荷目録作成のためのコンピューター入力、船荷証券の作成、入港船の入出港手続等の業務を委託している)」と主張しているとおりであって、本件出向命令には合理性並びに必要性があったものである。原審判決も認定しているとおり、昭和五九年一一月の本件出向命令発令当時は、既に辰己商会との間で人事交流に関する確認書が締結され、同商会との長期にわたる提携計画の交渉がされていた。

原審判決は、本件出向命令発令後三年余を経て生じたこれらの事情によって、その合理性、必要性を証拠づけることは相当ではないとして、上告人の主張を排斥するが、このような会社間の重要な契約は短期間にではなく、あらゆる事態の対応を慎重に検討し、段階的に実施しつつ時間をかけて結ばれるのが通例である。原審判決はこのような契約締結上の実情を無視している。上告人は、このような辰己商会との間の提携計画に関する契約締結の状況を明らかにするため、常務取締役斉藤昇を証人として申請したが、原審は右証拠申請を採用せず、単に本件出向命令発令後三年余を経て生じたこれらの事情によって、その合理性、必要性を証拠づけることは相当ではないとして、上告人の主張を排斥するのは審理不尽であり、理由不備の違法があると言わねばならない。

以上

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